秀808の平凡日誌

第8話 波乱

第8話 波乱


 ・・・体が、動かない。

 まるで、金縛りのような・・・体の所々が痛い。

 そして痛みに混じって、熱さのようなものも込み上げてくる。

 目をあけても、薄暗い白いレンガ状の天上がうっすらとぼやけて見えるだけだ。

 そして、なんでこんなことになっているのか、なぜこんなところで、こうしているのかが、全くわからない。

 思い出そうとしても、何も浮かんでこない。

 心の中も、まるで無風の湖面のように静まり返り、何も感じない。

 心の中、全てが闇に飲まれたかのようだ。

 ただ、一点だけある、小さな光をのぞいては・・・

 

 だんだんと音が近づいてくる。

 人間の足音なのか、それとも怪物の足音か・・・その足音の主は、動けない俺の横で止まった。

 そして、どこかで聞いた覚えのある声で語りかけてきた。

 人間だということに、俺は少し安心感を覚えた。

「選ばせてやる。このままここに放置され、誰にもわからぬまま死ぬか、それとも、私の下僕となり、生き長らえるか・・・どちらを望む?」

 俺は、即決だった。

 このまま死ぬぐらいなら、生きていたい。

 俺は生きて、誰か定かではない大切な人に、会わなくてはならない気がするから・・・。

 相手は、俺の返答を理解したのか、胸に手を軽くあて、言った。

「・・・いいだろう。お前の名は、今からレクルと名乗れ、私の名ははファントム・クラウンだ・・・いいな?」

 その途端。急に体が何かに満たされていくのを感じたのを最後に、俺は深い眠りについた。


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